箱の中の電子の動き
図(a)のように、白色で辺を示す直方体の箱があり、その中に電子が1個あます。
この電子は時刻 t=0で右上方向の速度を持っています。
電子はどのように箱の中を動くのでしょうか?
電子は粒子として表現できませんので、灰色の分布として表現しています
(正確に言うと、電子の存在する確率密度が 0.1 0.01 である等値面を描いています。
確率密度は波動関数Ψ(x,y,z,t)というものから求められます)。
電子はまず右の壁に衝突し、奥の壁に衝突し、上の壁に衝突します。
粒子として表現できるテニスボールなどが動く場合(真っすぐな直線の軌跡をえがき、
壁に衝突し跳ね返った後も直線で移動してゆく)と異なり、
電子の場合は、その分布が縞模様に広がってゆきます。
ほとんど分布しない所と、
たくさん分布する所が移り変わってゆきます。縞模様に広がるだけでなく、
ときおり箱の右側だったり、左側だったり、いろいろと分布が偏ることもあります。
電子の動きを計算(コンピュータ)で求めたときの細かい条件は次のとおりです。
直方体の箱は座標 (0, 0, 0) から (4 a.u., 6 a.u., 10 a.u.) にあります。
ここで a.u.は原子単位(atomic unitの略)という単位です。
長さの原子単位である 1 a.u.は 0.53×10^-10 mです(10^-10は 10のマイナス10乗);
最初 t=0のときの電子は球状の分布をさせています。中心ほど確率密度が高い分布になっており、
確率密度が一番大きい場所の座標は (2 a.u., 3 a.u., 5 a.u.) です;
t=0の電子の速度は (2.16 a.u., 2.16 a.u., 2.16 a.u.) を与えています。ここの a.u.は
速さの原子単位です;
この電子がもっているエネルギーは 8.5 a.u.です(運動エネルギーだけもちます)。
この a.u.はエネルギーの原子単位です。いろいろな単位に a.u.という
同じ記号が使われます。
エネルギー 1 a.u.は 4.3×10^-18 J です。ところで 8.5 a.u.という大きさは、
ゲルマニュウム原子にある3s電子と呼ばれる電子を原子から取り出すのに必要なエネルギーに近いです;
電子の動きは、時刻 t=0.75フェムト秒まで計算して求めています。
1フェムト秒は 1×10^-15秒です(時間の原子単位だと 41 a.u.)。
図(b),(c)のグラフは電子の位置と速度について、平均的にどのような値であるのかというような
期待値を示しています。例えば、位置の期待値の x成分を見ますと t=0.2フェムト秒の後、
電子は座標 x=4 a.u.のところにある壁に衝突して、
跳ね返って、x=0 a.u.の反対側の壁に衝突し、
箱の中央(x=2 a.u.)まで戻ってきます。
ところが、そのまま箱の中央を通過して行ってその先にある壁に衝突するという事はせずに、
直前に衝突した壁の方に再び近づいています。
テニスボールの場合と比べて、随分と不思議な動きをしています。
このように日常生活の常識が成り立たない原理がいろいろなものの基礎にあります(図(d)参照)。
波動関数が時間について変化しないときには、波動関数を求める手段は沢山あります。
しかし、時間変化を調べることについては発展途上です。
そんなわけで時間発展する波動関数を求める方法論や計算技術、そしてソフトウェアを開発しています。
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